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「宇宙が映す生命:地球生命の未来予測に向けた環境応答と制御系ロバストネスの理解」

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへいくのか。」

 これは、画家ポール・ゴーギャンの作品に刻まれた、深い哲学的な問いです。中でも、最後の「どこへいくのか」というのは、どこか「問い」としてもつかみどころがなく、特に難しいように感じられませんか?

 

 そう、「未来予測」。

 

 けれど、もしかすると私たちは、宇宙というフロンティアを探索するなかで、この問いに生命科学の視点から近づける新しい手がかりを、見つけ始めているのかもしれません。しかもそのヒントは、ずっと私たち自身の中にあった ── そんな可能性に気づいたのです。

 

 人類史上に一度しかない、この宇宙進出の時代に生きる私たち。まだその輪郭さえも見えない、ワクワクする未知の探究に、あなたも参加しませんか?

 

 このページでは、研究の背景からご紹介します。

D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous? 我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか ポール・ゴーギャン. 1897-1898年 ボストン美術館ウェブコレクションより: https://www.mfa.org/collections

研究の背景

重力が消えると、生命はどう変わるのか?
 地球上のすべての生命は、1Gという重力環境のもとで約40億年の進化を遂げてきました。では、その“当たり前の重力”が失われた宇宙では、いったいどのような変化が起こるのでしょうか?

 宇宙飛行士の経験から、骨や筋肉など、体を支えるための「抗重力機能」が無重力環境で急速に衰えることは知られていました。


「重力がなくなれば、体重を支えるための機能は不要になる」── そう単純に考えられてきたのです。

 ところが、水中で浮遊生活する魚類ですら宇宙では骨が変化し、マウスの宇宙飼育実験では、骨や筋肉に加えて、免疫系・代謝系・神経系・皮膚のバリア機能など、多岐にわたる変化が観察されました。


 もはや単なる「抗重力機能の喪失」では説明できない現象が、宇宙で次々と明らかになってきたのです。

 また、これらの観察結果は、国際協力による宇宙ステーションが完成し、長期間にわたる宇宙実験が可能になって、ようやく人類が手にした、全く新しい知見です。

宇宙飛行士は身体の衰えを防ぐために、宇宙で運動を行います。(写真:NASA Imagesより)

それは、生命が“進化を逆行する”ような変化─

 私たちが注目したのは、こうした宇宙での変化が、脊椎動物が海から陸へと進出した際に獲得した機能と関係していることです。

 地上では、骨は硬くなり、筋肉は発達し、骨髄では免疫細胞が育まれる。しかし宇宙で暮らしたマウスでは、骨が柔らかくなり、筋肉は萎縮し、骨髄の細胞は退化していく。

 ほかにも、皮膚のバリア機能は地上の乾燥から身を守り、空気中の高濃度酸素への対応、体内のミネラルバランス維持も、宇宙で変化する、陸上生活に重要な機能です。

 これらはまるで、進化の過程を巻き戻すような、“先祖返り表現型”だと考えられるのです  これは単なる偶然でしょうか?

人類はとうとう宇宙へ到達!と思ったら体は太古の姿に逆戻り!?

「進化の過程で既に獲得されたはずの体の機能は、実はそれほど固定化されたものではなく、”重力に応答して継続的に維持されていた”のではないか?」
 私たちの研究は、こうした問いから始まりました。

 さらに、もしそうだとすれば、月(1/6G)や火星(3/8G)のような低重力環境では、地球生命のかたちは、まったく異なるものへと変化してしまう可能性があります。

 

 地上では決して失われることのなかった重力が持つ、これまで見えなかった、生命のかたちへの隠れた影響。より安定して受け継がれるDNAの塩基配列の情報(ゲノム情報)の変化を中心に考えられてきた進化生物学に、環境の影響や記憶(エピゲノム情報、その他の物理的な制約など)を融合させる手掛かりが、ここにあると考えられます。

 本研究では、無重力環境で見られる“先祖返り”現象の背後にあるゲノムの働きとその制御のしくみを解明することで、重力という環境要因が、生命の見かけ上の進化や機能の維持に果たしてきた、本質的な役割に迫ろうとしています。

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​地球外では生物のかたちも変わる?(注:イラストはもちろん想像です!)

​人類にもたらされた気づき、生命を理解する宇宙スケールの視座

 そして、広い宇宙に思いをはせるとき、改めて気づかされるのが私たちが暮らすこの地球という星の、あまりにも特別な、しかし当たり前すぎて見過ごされてきた環境です。

 重力のほかにも、さまざまな環境条件があります  適温・適圧、豊富な水、そして地球の磁場により、過酷な宇宙放射線から守られた空間。ここはまさに、宇宙の中にぽっかりと浮かぶ「生命のゆりかご」なのです。

 しかも、私たち地球生命は、現在の地球環境を離れたことがありません。これまで慣れ親しんだ「当たり前」の環境や生活様式が大きく変化したとき、​または、この地球を離れた生命の未来とは?そこには、まだ誰も見たことのない、さまざまな可能性が広がっているはずです。

 それほど極端ではありませんが、じつは気候変動や環境汚染など、着実に進む地球の変化もあります。これらの影響は人類と生態系にどのようなインパクトを与えているのかを、より詳しく解析し、予測する手法も開発できるかもしれません。

​ また、地球外生命を探索するアストロバイオロジー分野や、さらには人工生命・知能の創造においても、私たちの常識にもとづいた「地球型」だけを想定していては、思わぬかたちであらわれる「生命体」を見過ごしてしまう可能性もあります。

​ 地球生命・生態系の過去と現在を理解し、未来予測につなげる。人類の永遠の哲学的問題と現代の先端科学が、宇宙からの気づきをきっかけに融合し始めています。

宇宙遺産登録.jpg
「地球」宇宙遺産登録へ?(注:未登録です!)

 ちょっと長くなりましたが、ここまでお読みいただき、ありがとうございます!研究の背景や問題意識について、少しでも感じ取っていただけたでしょうか?💦

 ここまで長文にお付き合いいただいたみなさんの心の中には、きっとすでに何かしらの“気づき”が芽生えているのではないかと思います。哲学から社会科学、環境、地球外生命体まで ── どんな視点からでも、私たち一人ひとりが思いを巡らせることで、人類と地球生態系の持続的な未来づくりに貢献できるはずです。

​ 公開シンポジウムなどは、一般の方にも関心を持っていただけるように企画したいと思いますので、ブログX/Twitterなどで気になる記事があれば、ぜひコメントをお願いします!

 さて、最後のキーワード「ロバストネス」についてもぜひご紹介したいのですが…
それはまた、次の機会にあらためてご説明させてください!😅

​​​ さらに​詳しい研究の紹介はこちら(🚧工事中)。

研究組織と研究課題

 さて、本領域が取り組む大きな疑問、研究テーマは決まりました。ではどこからアプローチすれば良いでしょうか?それを支えるのが8つの計画研究テーマと研究者グループ、そして総括班「スタディセクション」です。

計画研究A01

 最初の項目「A01」では、発生・生理・解剖学的なアプローチを担当します。JAXAのマウス宇宙飼育研究での発見をもとに、地上での実験を組み合わせながら、重力を感知する耳石器官からの刺激や、体全体の細胞や神経系が直接受け取る重力が、どのように体内の各器官を調節するのかを調べます。

 

骨格筋の前庭系および末梢レベルでの重力制御と宇宙環境応答の理解

代表者:高橋 智(筑波大学)

 

骨・骨髄環境の重力制御から迫る進化と宇宙環境への適応

代表者:篠原 正浩(国立障害者リハビリテーションセンター・研究所)

 

宇宙環境で顕性化する生命の免疫制御戦略とその破綻

代表者:秋山 泰身(理化学研究所)

計画研究A02

 項目「A02」では、環境ストレスやミトコンドリア機能、放射線応答と次世代影響についての解析を担当します。発生学的な変化のほかにも、宇宙では環境応答に関する分子や細胞調節機構が大きく変化します。これらの環境ストレス応答を解析するとともに、さまざまな変化の次世代影響の解明に取り組みます。

 

宇宙環境ストレス応答の理解から挑む加齢性疾患の克服

代表者:鈴木 隆史(東北大学)

 

「がん」から探る宇宙環境応答

代表者:髙橋 昭久(群馬大学)

 

ミトコンドリア機能不全マウスから探る宇宙環境への適応と次世代影響

代表者:吉田 圭介(日本医科大学)

計画研究A03

 項目「A03」は、A01、A02、さらに領域で行われる網羅的測定(マルチオミックス解析)とデータの統合解析を担当します。また、A03にはマウス以外の動植物、微生物を専門とする研究分担者が参加しており、多種間での結果の比較や仮説の検証に取り組みます。

 

宇宙及び地上実験検体の空間マルチオミックス測定プラットフォームの整備

代表者:柴 綾(筑波大学)

 

環境適応の強靭性を司るエピゲノム制御可変域のシステム生物学的探索

代表者:村谷 匡史(筑波大学)

総括班「スタディセクション」

​ 本研究領域では、領域内外で進む研究の協力関係の調整とリソース配分を行う組織「スタディセクション」を設置することで、ポストISS時代に向けた国際的な研究ネットワークの構築に対応します。

 令和7年度と9年度には、さらなる研究テーマ「公募研究」の募集が予定されていますので、ぜひご参加を!

 詳細版はこちら。

「宇宙が映す生命」事務局

〒305-8575

茨城県つくば市天王台1-1-1

​筑波大学 医学医療系ゲノム生物学研究室

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