科学研究費・学術変革領域研究(A) 「宇宙が映す生命」公募研究募集
キックオフセミナー&公募研究説明会
2025年8月4日(月)
14:00-15:30 オンライン(Zoom)開催
宇宙実験に携わっている研究者はもちろん、幅広い研究者からの研究提案をお待ちしています!
▶ 進化・発生・生理・生態学研究
▶ マルチオミックス・データサイエンス研究
▶ アストロバイオロジー・極限環境生物
▶ ヒト・人と社会を対象とした未来予測 など
これまで宇宙研究や重力・メカノバイオロジー研究に携わってきた研究者には、さまざまな現象や分子メカニズムの進化的由来や環境応答としての意義について再検討するような研究提案をお願いいたします。
また、今後宇宙実験を計画しているアイディアについては、地上予備実験としての課題の提案もお待ちしております。
① 領域の概要
人類の長期的な宇宙進出に不可欠な健康管理や新たな食糧生産への挑戦には、多様な生命体が示す生体応答を深く理解することが求められます。また、地球上で40億年にわたって進化してきた生命が、宇宙環境に進出していく未来を予測することは、過去の環境変化に適応してきた地球生命の機能を理解する上でも、新たな視点をもたらすと期待されます。
国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)では、微小重力環境を活用した生物学実験が行われており、まだ限られた研究事例ではありますが、地上で蓄積されてきた生命科学の知見との比較を通じて、生命体が秘める新たな挙動の特徴が明らかになりつつあります。
ISSに設置された「きぼう」日本実験棟には人工重力装置が備えられており、マウスをはじめとするさまざまな動植物の宇宙実験が実施されてきました。その中で、微小重力環境においては、脊椎動物の姿勢や運動を支える骨や筋肉の抗重力機能が低下するだけでなく、より広範な生理的変化が引き起こされることが報告されています。これらの変化には、脊椎動物が海から陸へと進出する過程で獲得してきた特徴的な機能の低下も含まれており、注目すべき現象です。
すなわち、各組織や器官の生理機能を維持する恒常性のメカニズムや、細胞の分化状態の「セットポイント」とされる機構が、宇宙環境下では祖先的な性質に似た方向へと変化する傾向が見られます。こうした現象を、本領域では「宇宙における先祖返り表現型」と捉え、これまで進化の過程で獲得・固定されたと考えられていた形質の中にも、地球環境への継続的な生理的適応が含まれているという仮説を立てています。
また、マウスの宇宙飼育研究においては、宇宙滞在が次世代に影響を及ぼす可能性も報告されています。これらのISSを活用した宇宙実験の成果は、地球上では短期間では変化しないと考えられてきた生命の特徴が、月(1/6G)や火星(3/8G)といった低重力環境においては、未知の機能が発現し、大きく変容する可能性を示唆しています。
本領域では、恒常性の維持や細胞の分化状態を制御する「ロバストネス」と、微小重力下で観察される祖先的な形質が現れる「可塑性」という、相反する性質をあわせて、ゲノム・エピゲノム制御および世代間影響の観点から解明していきます。また、地上環境への適応の中に隠れていた未知の機能を人工的に顕在化させることにより、ゲノムの未知機能の再発見とその応用の可能性を広げていきます。このような知見は、将来の宇宙・地球双方における健康管理、食糧生産、環境対策、バイオミメティクスなど、学際的な研究領域への波及効果も期待されます。
② 公募する内容・公募研究への期待
本領域では、A01およびA02の計画研究を中核に据え、マウスを用いたISSにおける多様な宇宙実験課題を横断的に展開しています。これらの研究と相補的な役割を果たす形で、A01の公募研究では、環境変化や物理的刺激によって誘導される発生学的・解剖学的・生理学的変化に注目し、組織や臓器の恒常性維持機能に関するユニークな実験系を有する研究者の参加を歓迎します。計画研究との連携を通じて、宇宙で顕在化する未知の現象に対し、機能分子や制御様式の観点から共通点や差異を探る研究課題を広く募集します。
A02の公募研究では、環境ストレスや栄養条件に対する応答系、および世代間影響に関して、単細胞・多細胞生物や細胞培養系を用いた多様な研究アプローチを想定しています。極限環境(高温・高圧・乾燥・放射線など)を扱うアストロバイオロジー分野の研究も対象とします。
また、A03およびその公募研究では、A01およびA02の研究成果に基づいて演繹的に導かれる仮説を、微生物からヒトに至る多様な生物種に展開・投射し、理論と実験の両側面から生命の過去と未来を宇宙スケールで理解・予測する融合的な領域を目指します。ポストISS時代を見据えた新たな宇宙生物実験系の構築を目指す研究については、地上における予備的研究も支援の対象とします。
さらに、植物や動物の陸上進出に関わる重力応答系やメカノセンサーの環境応答に関する比較生物学的な研究や、進化系統を意識した幅広い生物種の取り扱いも本領域で重視しています。加えて、世代間影響の研究では、生物学的な変化にとどまらず、惑星間移住などを見据え、文化・テクノロジー・行動様式など、ヒト社会・集団・生態系レベルでの影響を扱う精神医学・社会科学・データサイエンス分野からのアプローチも歓迎いたします。
本公募で想定する研究課題:
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宇宙実験や環境応答の世代間影響の解明
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将来の宇宙実験に向けた予備データの取得
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マルチオミックスデータ解析
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人文・社会科学的な未来予測
③公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数
研究項目
A01 環境変化により起こる組織・臓器の細胞分化や恒常性維持機能の変化、発生・解剖・生理学的な現象の理解
A02 環境ストレス応答系の制御とその世代間影響の理解
A03 微生物、モデル・非モデル動物、光合成生物、ヒトにみられる宇宙・重力・極限環境などへの応答の理解
単年度当たりの応募上限額、および採択目安件数
500万円 6件(宇宙実験や環境応答の世代間影響に関するメカニズム解明を目指す研究)
300万円 12件(萌芽的研究、データ解析を行う研究、人文・社会学的なアプローチによる未来予測研究)