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「ロバストネス」って何?

 研究の概要では説明しきれなかった「ロバストネス」という言葉について、この研究領域の視点からご紹介したいと思います。

 ロバストネスとは ―― 簡単に言うと、「いろいろなトラブルがあっても、ちゃんと機能を保てる強さやしなやかさ」のことです。日本語では「頑強性」や「堅牢性」などと訳されることもあります。

 たとえば、社会インフラにおけるロバストネスはイメージしやすいかもしれません。飛行機が欠航しても新幹線という別の移動手段があったり、送電所のひとつが止まっても、停電にならずに済んだりしますよね。こうした仕組みは、「何かが起きても大丈夫なように」あらかじめ備えられているからです。

私たちの体にもロバストネスがある

 実は、私たちの体にも同じような“備え”があります。たとえば、体温や血糖値を一定に保つ「恒常性(ホメオスタシス)」、細胞の種類や数を適切に保つ仕組みなどは、体の中や外の環境が変わっても大きく乱れないように働いています。

 これまでの研究から、こうした生命機能の安定は、ひとつの遺伝子や分子だけではなく、複数の働きが協力し合うことで支えられていることがわかってきました。その複雑さこそが、生き物の「ロバストネス」を作っているのです(図1の積み木のイメージをご覧ください)。

Fig1.png

図1: システム生物学の視点から考える制御系のロバストネス

(A) ひとつの要素だけで成り立っているシステムは、その要素に問題が起きると全体が破綻しやすい。(B,C) いろいろな要素がバランスよく支え合っていると、一部に不具合が起きても全体は柔軟に対応して保たれる。

宇宙ではロバストネスが破綻する?

 このように、ロバストネスは生き物にとってとても重要な仕組みですが、宇宙という特殊な環境では、それが部分的に失われるように見えるのです。つまり、抗重力機能だけでなく、陸上生活に必要なさまざまな機能が、宇宙に行くと一斉に弱まってしまうことがあります。これは、その部分のロバストネスが「破綻している」状態と考えられるのです。

 

 その背景には、私たちの体のかたちを一定に保つ仕組みが「地球の重力があること」を前提に進化してきたことがあります(図2を参照)。

Fig2.png

図2: 地球上で普遍的な重力シグナルに依存したシステムと無重力環境での破綻のモデル

(A,B) 長い進化の過程で、重力に支えられたさまざまな機能が積み重ねられてきた。(C,D) 突然、重力のない宇宙に行ったことで、それらの機能が一気に働かなくなった。

 重力という環境は、地球では「絶対に変わらないもの」として生命の進化に組み込まれてきたはずです。そのため、万が一重力がなくなったときのための“バックアップ”が、私たちの体には備わっていないのは、ある意味当然です。そうした無防備な状態で突然、無重力という宇宙環境にさらされたことで、これまで積み上げられてきたさまざまな体の機能が一斉に崩れてしまう――。
 

 このような見方から、私たちは「宇宙でのロバストネスの破綻」に注目して研究を進めています。

 

 そして、もしそうした弱点を見つけ出すことができれば、ふだんはロバストネスによって守られ、表に出ることのなかった生命機能の“本来の力” ―― 言い換えれば、進化の過程で眠っていたポテンシャル ―― を引き出すことができる可能性があります。

 つまり、宇宙での研究は、生命の限界を探るだけでなく、その可能性を開く鍵にもなるのです。

 いかがでしょうか。火星移住を果たした未来の人類や、地球生態系の新たなかたち。そのような生命機能の理解は、決して遠い世界の話ではなく、私たちが地球でより良く生きるためのヒントにもなるはずです。

「宇宙が映す生命」事務局

〒305-8575

茨城県つくば市天王台1-1-1

​筑波大学 医学医療系ゲノム生物学研究室

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